- 作者: 荻上チキ
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/10
- メディア: 新書
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積読状態になっていたものを読了。サイバーカスケードについて社会学の用語をちりばめながら紹介した本.
サイバーカスケードというのは憲法学者キャス・サンスティーンが提唱した概念で各人がサイバースペース上で欲望のままに情報を獲得し、議論や対話を行った結果、特定の行動/言説パターンに集団で流れていくという現象。例えば、「のまネコ騒動」とか、あびる優の事件とか。
サイバーカスケードは否定的な文脈で引用されることが多い気がするけど、著者はサイバーカスケードに関して必ずしも否定的でなく、「スティーブさんの自転車を探すオフ」など、サイバーカスケードが良い方向につながる例も紹介している。
ただ、三章の「イラク人質事件」や「反ジェンダーフリー」などについてはかなり一方的な否定的な見方だった。デマに対する批判は適切なんだが、どうしてデマが発生しそれを信じたか(そんなに信じた人がいたのかも疑問なんだけど)に関する推測は、著者の思い込みのように思えた。さらに、さんざん批判した後に、これは社会心理を読みとくためのモデルだから多くの人がそう考えたと思っているわけではない、と付け加えているのが誠実的ではないな。大した根拠のないモデルを紹介することに意味はないわけだし。
マスコミは視聴者の意見を変えることはできないが、何が問題であるかという争点を変えることができる。同様に、サーバーカスケードも争点のカスケードをもたらすという視点は興味深い。ただ、その問題で重要なのは炎上を実行している側よりもまとめる側の方じゃないかな。まとめサイトとか、また、この本もそうだと思う。多くの人(もちろん興味ない人は除く)は自力で炎上の全体を掴むほど暇ではなく、まとめサイトやこういう本を読んで事件があったことを知るのだから。
サーバーカスケードへの対処としてはリテラシー教育だけでなく、アーキテクチャ的な解決策が必要と言っているのだが、具体策がかかれていないので弱い。個人的にはこの問題に関してはアーキテクチャ的な解決法はあまりうまくいかないんじゃないかなと思っている。反対意見を見せるようにアーキテクチャで強制したとしても、読者はみないだろうし。リテラシー教育と極端なものは法で縛るというのでいいのではないかな。