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北朝鮮帰国事業関連本2冊

北朝鮮へのエクソダス―「帰国事業」の影をたどる

北朝鮮へのエクソダス―「帰国事業」の影をたどる

北朝鮮帰国事業 - 「壮大な拉致」か「追放」か (中公新書)

北朝鮮帰国事業 - 「壮大な拉致」か「追放」か (中公新書)

ちょっと興味があったので2冊ほど読んでみた。実は日本が積極的に動いたみたいな話があったなと思って。

前者は帰国事業の発端は総連の運動がメインで、日本政府は慎重だったという従来の言説が間違っており、日本が在日朝鮮人を厄介払いするために始めたとしている本。後者ではそれは事実誤認であり、日本政府は在日朝鮮人が厄介者であるという認識はあったものの、それを理由に帰国事業を主導したわけではないとしていた。後者の方が最近の本なので、前者に対する反論も書かれている。

前者の本を読んでいると、日赤が結構積極的に動いているのだが、最後の辺りで、「帰国事業は日本の政治家、官僚、日赤が始めたということが明らかになった」となっていた。いつのまにか増えてるような…

帰国運動の初期に日赤が動いているのは確かなんだけども、別に指示系統があるわけでもなさそうなので、それをもって日本の政治家/官僚がとするのは無理っぽい。いやこの本では影の外務省とか呼んだりしてそういったイメージをつけようとしているのはわかるんだが、根拠は書かれていなかったな。

では、日赤が主導した根拠は何かというと、1955年に日赤が赤十字国際委員会に帰国事業を代行してくれるように申し入れており、それ以前には、在日朝鮮人による帰国希望の運動は小規模なものしかなかったとしている。しかし、後者の本によると事実誤認であり、1953年に民戦(総連の前身)の運動が、1955年に総連の運動があり、共に日赤に申し入れているという流れを無視している。

また、帰国希望者の推計が日赤が6万と主張していたのに対し、総連が北朝鮮側に3万と報告していたという部分を非常に疑問視している。この部分についても、後者の本で、「推計に何深い意味持たせようとしてんの?」というように突っ込まれている。まあ、その通りで、総連側は大量帰国を考えていなかったとするのは著者の想像以上のものには成りえない。

前者の本では、日本の要求により、帰国のペースを1回1000人から1回1200人に上げたという点で、日本政府を批判している。しかし、後者の本によると、日本政府は早期にこの事業を終了させようとしており、短期で終わらせるためにペースを上げたわけである。また、日本政府が終了させようとしていたのを、総連や北朝鮮が何度も反対していることについては何も触れていない。都合のいいところだけを切り貼りしているのではないかと感じる。

そもそも論として、あらゆる人がどこに住むかは自由に決められるべきなので、帰国事業そのものは問題ではなく、うその宣伝をしたり、戻ってきた人を人質にしたり、粛清したり、逆方向(北朝鮮->日本)の移動を許さなかったりするのが問題である。そう考えると、総連と北朝鮮が一番の問題だったことに変わりはないよなあと。そこら辺に対する指摘は後者の本もやっていた。

後者の本の著者は読売ウィークリーの記者であり、本業をしながら夜打ち朝書きで書き上げたらしい。しかし、帰国事業の歴史的な流れ、なぜ帰国しなかったのか、なぜ帰国事業が長く続いたのかを正確にまとめていると思う。少なくとも前者の本よりも質は高い。逆に、前者の本は日本を悪役にした物語のように書かれていて、研究書としては不適切な気がした。